以前、在籍していた会社や関わった現場で、「会社は家族」という言葉を耳にする機会が何度かありました。
少人数で密に連携するデザインや制作の現場では、この言葉は特に使われやすく、当時の私はその考え方にどこか納得していた部分もありました。
チームワークを高めるためには、単なる業務関係を超えた信頼関係が必要だと考え、「家族のような関係性」を良しとしていたのだと思います。
しかし結果的には、この考え方が組織に歪みを生む要因にもなっていました。
「家族だから」という前提があることで、役割や責任の線引きが曖昧になり、本来であれば言語化すべき期待値や評価基準が共有されないまま進んでしまう。
制作現場においても、「言わなくても分かるよね」「これくらいやってくれるよね」といった暗黙の期待が積み重なり、徐々に負荷が偏っていきました。
また、関係性が近いがゆえに、適切なフィードバックや評価がしづらくなり、問題が表面化しにくい状態も生まれていました。
結果として、パフォーマンスのばらつきや不満が蓄積し、チーム全体の機能低下につながっていったのです。
当時の私は、それを「人の問題」だと捉えていました。
気が利かない、主体性がない、温度感が合わない。そうした個人の資質に原因を求めていたと思います。
しかし後から振り返ると、それは人ではなく構造の問題でした。
「会社は家族」という言葉によって、本来設計すべきだった役割・責任・評価の基準が曖昧になり、組織として機能しづらい状態を自ら作ってしまっていたのです。
デザインやクリエイティブの現場は、もともと正解がなく、属人的になりやすい領域です。
だからこそ関係性に頼りたくなるのですが、それに依存しすぎると、かえって再現性のない組織になってしまいます。
現在は、「家族のような関係性」を否定するわけではありませんが、それを前提に組織を設計することはしていません。
会社はあくまで、役割と責任、そして対価で成り立つ共同体です。
その前提を明確にした上で信頼関係を築くことが、結果として健全なチームにつながると考えています。
クリエイティブ人材を「感覚」で扱うのではなく、役割と成果で設計する。
この考え方は、過去の失敗から得た大きな学びの一つです。